幕の内弁当/吉兆夢
。だからこうしてラジオやクマ鈴の音で山の獣に人の存在を知らせることが互いの領分を守ることになるのだとか。
ラジオはちょっと苦手なんだ、声が聞きたくなるから。
そう言って佐藤さんは肩をすくめました。
鋭い葉先の笹藪をこぎ、足場の不安定な沢を幾度も渡って、ようやくいつもの採り場に辿り着きました。
思わず呻き声が上がります。
茶色い皮の間から肋(あばら)を覗かせた無残な姿がここにも、そこにも、あそこにも。
竹林の筍はあらかた掘り起こされていました。
お腹を空かせた猪の仕業です。
目の弱い彼らは痛むくらいに尖らせた嗅覚でもってやわらかくておいしい筍を探し出そうと夜な夜なここにやっ
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