幕の内弁当/吉兆夢
 

可愛いお孫さんたちに自慢の筍を食べさせてやりたい。思わず溜息が溢れます。重なるように聞こえてきたのは梟の声。窓の外には爪の先っぽみたいな細い三日月が浮かんでいます。雲一つありません。明日は晴れそうです。

翌朝、山に入る佐藤さんの後を追ってみました。


     ( りん りん )


まだうす暗い山の中にクマ鈴が響きます。夏場は風に混じった獣特有の匂いで熊や猪の居場所がなんとなく分かる、と佐藤さん。耳はだいぶ遠くなってしまいましたが鼻の良さには自信があります。ただ山沿いではまだまだ冷え込みの厳しい季節です。佐藤さんの自慢の鼻もこの冷たい空気では普段の力を発揮できません。だ
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