幕の内弁当/吉兆夢
んでしまった木々をくぐって雪解け水が勢いよく沢を下っていきます。里の桜はとうに散ってしまいましたが山域では土佐煮の美味しい季節がやって来ました。筍の季節です。
この時期になると遠方の家族とテレビ電話で採れた筍の品評会をするのを何より楽しみにしている佐藤さんですが、このところどうも浮かない顔です。スマートフォンの待ち受け画面を見せてくれました。佐藤さんの娘さん夫婦と小学生のお姉ちゃんたち、その膝には去年生まれたばかりの赤ちゃんが上手にお座りしています。その男の子の少し逆立った柔らかい髪を指差して「俺の家系だ」と嬉しそうに話してくれたあと、目を伏せて、佐藤さんは黙々と鍬の手入れを再開しました。
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