母が壊れてしまったあの日から/健
夕方帰宅すると、家の中に母の姿は無かった。専業主婦であり、外出するのも大抵は昼時である母が、特に何も告げずに不在にするのはそれだけで珍しいことだ。
どうやら母は車で出かけたらしい。
何か嫌な予感がしたが、当時母は携帯電話の類を持っていなかったので、特に何ができるわけでもない。
音楽を聴きながらだらだらと帰りを待った。
?
母から電話がかかってきたのは30分後ぐらいだったと思う。
重く小さく掠れた声で、何を言っているのか、ほとんどは聞きとれなかった。
拾い上げられたのは、ただ、「死にたい」と言う言葉だけ。
こちらの声が届いているのかもわからないまま、電話は切れてしまった。
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