S氏の記録(短編小説)/月夜乃海花
。自転車で公園に着いたらベンチに座ってるんですよ。とりあえず煙草でも吸おうかと思って、ポケットに入ってるセブンスターを探して、煙草に火を付けたんですよ。そうしたら、Sがこっち向いて手を振っていました。Sのスマホの光のせいか何か違和感を感じたんですよ。Sが近づいてきて、『よお』と言った瞬間ですよ。Sには顔が無かったんです。俺、疲れてるのかなと思って、何回も瞬きしてもSの顔は変わらないじゃないですか。人って本当に驚くと声が出なくなるんですね。俺は驚きながらも何も言えなかったんですよ。『どうしたんだよ』、『じろじろ見んなよ気持ち悪い』、発声する時だけSの口はがあ、と開くんです。まるで何かを捕食するように
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