詩の日めくり 二〇一四年九月一日─三十一日/田中宏輔
 
もどろどろに溶かされ、黒いかたまりに吸収されては吐き戻されていった。そのたびに、黒い小さなかたまりは大きくなり、グレゴールの身体は小さく縮んでいった。やがて交換が終わると、黒い小さなかたまりであったものは人間の小さな子どもくらいの大きさになり、グレゴールの身体であったものは段ボールの箱くらいの大きさになっていた。すべてがはじまり、すべてが終わるまでのあいだに、夜が明けることはなかった。もとは黒い小さなかたまりであったがいまでは透明の翅をもつ妖精のような姿をしたものが、手をひろげて背伸びをした。妖精の身体はきらきらと輝いていた。太陽がまだ顔をのぞかせてもいない薄暗闇のなかで、妖精の身体は光を発してき
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