詩の日めくり 二〇一四年九月一日─三十一日/田中宏輔
なかにそれを吐き出した。それは呼吸のように繰り返された。すする量が増すと、吐き出される量も増していった。そのたびに、黒い小さなかたまりは、すこしずつ大きさを増していった。もしもそのとき、グレゴールに聴力があれば、自分の脳みそがすすられ、そのあとに、もとの脳みそではないものが、自分の頭のなかに注入されていく音を聞くことができたであろう。「ちゅー、ぷわー、ちゅー、ぷわー、ちゅー、ぷわー、ちゅー、ぷわー。」という音を。「ちゅるるるるー、ぷわわわわー、ちゅるるるるー、ぷわわわわー、ちゅるるるるー、ぷわわわわー、ちゅるるるるー、ぷわわわわー。」という音を。交換は脳みそだけではなかった。肉や骨といったものもど
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