詩の日めくり 二〇一四年九月一日─三十一日/田中宏輔
そういったものが耳の穴のなかに入れられても、まったく気づくこともなく目も覚まさなかった。昆虫や無脊椎動物のなかには、獲物にする動物が気がつかないように、神経系統を麻痺させる毒液を注入させてから、獲物の体液を吸い取るものがいる。この甲虫のような一つの黒い小さなかたまりもまた、グレゴールの内耳の組織に神経を麻痺させる毒液を注入させて毒液が効果を発揮するまでしばらくのあいだ待ち、昆虫の口吻のようなものを内耳のなかからさらに奥深くまで突き刺した。そうして聴力をも無効にさせたあと、その黒い小さなかたまりはグレゴールの脳みそを少しすすった。すると、自分のなかにあるものを混ぜて、ふたたびグレゴールの脳みそのなか
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