空論のカップに口を付ける冬の横顔/ただのみきや
 

あたたかい不安と嘆息の





自分を拾い歩く

姉と弟が犬を散歩させている
土曜の朝
風は腰を下ろしたまま
静けさと鴉が圏を競う
冷気の背中のファスナーを下ろすと
晩秋の濡れた土 落葉が匂う

ここ数年毎朝届けられる
すでに失った取り戻せないものと
これから失うであろうものの目録
擬人化された季節や感情たちと
通販雑誌でも捲るように

一本の燐寸を擦るよりも
一本の燐寸になりたい
一瞬の快楽に燃え上り
記憶も残らず灰になる
そう百も千も書いたなら
繰り返される生贄のように
破り続ける誓約のように

姉と弟が公園を一巡りして此方へ
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