詩の日めくり 二〇一四年八月一日─三十一日/田中宏輔
 
くが優等生であったことを知っている。いまでも、その印象は変わってはいないはずだ。死んだ父も、ずっと、ぼくのことを、おとなしくて、よい息子だと思っていたに違いない。もっとはやく死んでくれればよかったのに。もしも、父が、ふつうに臨終を迎えてくれていたら、ぼくは、死に際の父の耳に、きっと、そう囁いていたであろう。自販機のまえで、従弟妹たちがジュースを欲しがった。

 どんな夜も通夜にふさわしい。橋の袂のところにまで来ると、昼のあいだに目にした鳩の群れが、灯かりに照らされた河川敷の石畳のうえを、足だけになって下りて行くのが見えた。階段にすると、二、三段ほどのゆるやかな傾斜を、小刻みに下りて行く、その姿
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