詩の日めくり 二〇一四年八月一日─三十一日/田中宏輔
に点字が浮かび上がる。それは、父方の一族に特有の体質であった。傍らにいる母には読めなかった。読むことができるのは、父方の直系の血脈に限られていた。母の目は、父の死に顔に触れるぼくの指と、点字を翻訳していくぼくの口元とのあいだを往還していた。父は懺悔していた。ひたすら、ぼくたちに許しを請うていた。母は、死んだ父の手をとって泣いた。──なにも、首を吊らなくってもねえ──。叔母の言葉を耳にして、母は、いっそう激しく泣き出した。
ぼくは、幼い従弟妹たちと外に出た。叔母の膝にしがみついて泣く母の姿を見ていると、いったい、いつ笑い出してしまうか、わからなかったからである。親戚のだれもが、かつて、ぼくが
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