遺失の痣/ホロウ・シカエルボク
君の家?と俺は訊いた、女は黙って首を横に振った、口にするような言葉は持っていないの、と話しているような仕草だった、次は、雨宿り?と訊いてみた、どうかしら、というように女は首を傾げた、少し中を見て歩いてもかまわないだろうか、と俺は訊いてみた、なんなりと、ご自由に、というふうに女は左手を、手のひらを上に向けて屋内を示して見せた、俺は靴のまま上がって、家じゅうを歩いた、特別何もない家だった、ただ浴室だけが、不思議なほど汚れていた、まるでそこだけで誰かが生活していたみたいに、俺は薄気味悪くなって玄関に戻った、楽しかったか、というふうに女が俺の顔を見た、俺は女の真似をして黙って肩をすくめた、「君は見なかった
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