遺失の痣/ホロウ・シカエルボク
 
俺は時計を見ただろうか、安物の腕時計は午前遅くを示していた、時刻なんてアナログの文字盤程度に知るのが一番いい、靴底は人生とともに擦り切れる、でも靴を変えるたびに新しい世界が始まったりなどしない、時々は比喩にすべてを頼り過ぎる、わかるだろう、色を付けない限り白か黒しかない、ゴム底はあまり音を立てない、でもリズムを生むことは出来る、聞こえる音だけが音ではない、海の方へと曲がる緩いカーブを曲がると堤防沿いの小道は銀杏の葉で埋め尽くされていた、幾つかの葉が助けを求めるみたいに、あるいは何かを企んでいるかのように、俺を手招きしていた、道に落ちたものばかりが語りかけてくる、ヘリの音がして空を見上げる、はっきり
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