過去の歌、散らばる道/ホロウ・シカエルボク
砂浜を三本脚の犬が歩いていた
歩いている理由は多分わたしと同じだった
やがて霧雨が降り始めた
雨の中に居ると
ほんの少し生きている気がするのはなぜだろう
目を覚ませ、目を覚ませと
優しい誰かに身体を揺さぶられているような
そんな気になるのはいったいどうしてなんだろう
折り畳み傘がバッグの中にあったけれど
取り出すことはしなかった
誰に会う予定もなかったし
きっと
困るほど濡れることはないに違いない
堤防の先端に居る釣り人も
知らん顔をして糸を垂れたままでいる
テレビのカメラマンらしき人が河口大橋の下で
とても真剣な様子で波を撮影していた
夕方のニュースでで
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