詩の日めくり 二〇一四年六月一日─三十一日/田中宏輔
目により深くものを見る力をつけさせるためのものではなかったのか、ということであった。左膝の痛みが激しくて、仕事の帰り道に、坂道の途中で坐りこんでしまったことがあって、でも、そんなふうに、道のうえに坐り込むなんてことは、数十年はしたことがなくって、日向道、帰り道、風は竹林の影のあいだを吹き抜けてきたものだからか、冷たいくらいのものだったのだけれど、太陽の光はまだ十分にあたたかくて、ぼくは坂道の途中で、空を見上げたのだった。ゆっくりと動いている雲と、坐り込んでいるぼくと、傍らを歩いている学生たちと、坂道の下に広がる田圃や畑のある風景とが、完全に調和しているように感じられたのであった。ぼくは、あの動いて
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