新居/墨晶
一杯掴み、わたしの目の高さのチェーンがピーンと張った。そして、隙間に傷だらけの革靴を突っ込んできた。付け焼刃の様な眼鏡を掛けた無骨な日焼けした顔が、先ほどの怒鳴り声と打って変わった猫撫で声で、「コノドアヲアケテイタダイテイーデスカー」と作り笑いで云う。どうしてこう云う人たちは新参者をすぐに嗅ぎつけるのだろう?
チェーンを外し、ドアを開けると、薄い鞄を片手に下げた大柄の男の卑劣さを恥じていないような顔は一瞬で歪んで硬直した。瞳孔が開いた眼鏡の奥の震える両眼はわたしの背後の部屋の奥を見ていた。程なく、男は絞り出すような声で絶叫した。鞄を振り回し、何度も転び、叫びながら路地を駆けていく男の後
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