新居/墨晶
 
 
          掌編

 内見のとき、不動産屋は部屋の窓を開け、済まなそうに、
「ええ、見える景色がこんなですから、正直人気がない物件なんですが」と云った。しかし、「人気がない」と云う言葉が、借りる決め手になった。窓の外、視界に広がるのは、墓地である。
 お寺の裏の路地の行き止まりにある古いアパートの一階だ。引っ越し業者の青年たちに、「こんな奥で申し訳ないです」と、飲み物の缶を渡しながら云うと、
「慣れてます。でもお客さん、荷物少なくて助かりましたよ」と首に巻いたタオルで顔の汗を拭きながら笑った。
 わたしを知る者が誰もいない町で、新生活がまた始まったのだ。


 新し
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