眉のあたりにすずしさの残る少女みたいに/須賀敦子とその「詩集」について/渡邉建志
 
すずしさの残る少女」(『時のかけらたち』)みたいだ。これは、須賀が「イタリアにはめずらしく純粋な」「典雅な修道院」サンタ・キアラを形容するときに用いた表現だが、ほとんどこの1959年のローマ留学時代の須賀自身のための言葉みたいだ。さらに、「あい」という言葉を使ったことには、驚いた。60歳で遅咲きの作家としての須賀は常に知的で慎重なイメージがあって、ストレートに愛という言葉を使わなかったように思う。そのぶん、29歳で書かれたこのまっすぐさを、うちに秘めていたことを知って、大切なものを密かにしまっておいた小箱を勝手に開いてしまったみたいで、申し訳ないやら、うれしいやら、となる。「この/かほりたかい/あ
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