ほんの、少しだけ濡れた/ホロウ・シカエルボク
 
して俺は金を払い、礼を言って店を出た、砂が風に混じっているみたいな雨が降り始めていた、空は少し明るくなり始めていた、そんな時間だったのか、俺は茫然として立ち尽くした、いまでも時々は矢のように過ぎる時間に自覚的になることがある、人生は街の下を流れる日の当たらない川だ、そのほとんどは知らないうちに流れて行ってしまう、俺は真っ暗な川面に浮かぶいくつもの詩のことを思った、それは俺が生まれてこれまでに書いてきたすべての詩だった、愛された詩もあったし、嫌われた詩もあった、誰かを怒らせた詩だってひとつやふたつじゃない…でも俺はそんなことのために詩を書いたことなどなかったし、べつにしったこっちゃなかった、頭をぽん
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