写真家の春/阪井マチ
 
住所は知らなかった。だからかつての職場の周りを歩き回ることにして偶然出くわすことに希望を掛けた。店の中で待ち受けていれば会える可能性は高まると思ったが、別離はそこで働いていた頃にひとりの同僚から殺害予告を受けていてその人がまだ店にいたら今度こそ殺されるだろうと確信していた。別離は個展を開いてから死にたいと思っていたので、危険は避けるに越したことがないと判断した。さいわいにも最近は暖かい日が多くなっており外を歩いていてもあまり支障はなかった。まずは一週間、毎日うろついてあの客を探してみようと思った。
 捜索を始めてから五日経って客は見つかった。別離が声を掛けて振り向いたその客は当時よりもずっと遠く
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