北村太郎(その詩と死)/岡部淳太郎
も死を意識せざるを得ない状況にあったらしい。だが、そうした伝記的事実をぬきにしても、詩人のこの死へのとりつかれかたには胸を打つものがある。晩年の詩業の集大成であり、この詩人の到達点でもある一九八八年の詩集「港の人」では、その死への傾きと諦念が奇妙な明るさにまで高まっている。
{引用=おなかをこわす
からだをこわす
という
肺をこわす、とか
頭をこわす、なんていわない
どうしてかな、と考えながら開港資料館の前を歩いていく
ぼくの骨髄は
寒暖計で
それがきょうはずいぶん低いとおもう
水銀は腰のあたりか
うつむいて歩いていると
枯葉がすこし舞って、しつっこくついて
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