北村太郎(その詩と死)/岡部淳太郎
いてくる
こんど恋人にあったら
魂、こわしちゃってね、っていってやろうか
つぶやきながら
枯葉をけっとばし
愁眉をひらく
検疫所のビルの八階に喫茶店があるのを発見したのは
あれは
冬の始め
きょうみたいな寒い日で
エレベーターを降りながら
いいとこみつけた、と喜んでいた
きょうも
そこへ昇って、にこにこしていよう
(「港の人 16」全行)}
死とは固有名詞との別れであり
人名よ、地名よ
さようなら、ってことだ
ちょっとあの世にいる気分になれたな、とおもう
いいにおいもしたし
(「港の人 28」最終連から)
詩人・北村太郎はひたすら死をうたい、その奇妙に明るい孤独の中で、ゆるぎない独自の詩を書きつづけた。一九九二年十月、腎不全のために死去。享年六十九歳。
参考文献
「北村太郎の仕事1 全詩」(思潮社)
「現代詩文庫118 続・北村太郎詩集」(思潮社)
「北村太郎を探して」北冬舎編集部編(北冬舎)
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