北村太郎(その詩と死)/岡部淳太郎
 
たい詩。だが、それに反して、後年の詩はどうか。


ことばを捉えようとして
声がこみあげる
息が詰まり
たとえばテーブルの瓶が
時間になる
窓のそと
シャツがはためき
街のかたちがふしぎにととのい
信号の明滅が
順調な過去のように見える
上膊が硬直し
米噛みがふくれ
どこか遠くの部屋で
ピアノの蓋が締められる
だれ一人いない
夏の海を思い出す
そのように
充実した無の感情の
波の
くりかえしが
椅子を取りまく地獄である

(「怒りの構造」全行)


 第一詩集から六年後に刊行された二冊目「冬の当直」から冒頭の一篇である。これを読んでいる
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