不完全に燃焼する罠/こたきひろし
 
スナックねね。
その店名から彼は豊臣秀吉の正妻の名前を連想した。それは特別な歴史認識じゃなくて普通だった。
千葉に近くて東京のはずれにあった街。だったが地方出身で山間の土地から上京し就職して一年余りの彼にとってはそこが巨大都市の一隅に何の違いもなかった。
首都東京は人人人。とにかく人が多いと言う印象に飲み込まれてしまう。
自分の存在が砂の一粒にも負けてしまうと言う怖さをしきりに感じてしまう状況に置かれてたえず心細い思いにかられた。
総武線上の駅から十五分位歩くと彼が住み込みで働いていたチッボケな洋食屋があった。独立開店して一年余りの店は普段から二十歳代半ばの経営者と彼の二人だけで切り盛り
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