秋耕と幻想/道草次郎
 
す。それら残存物が成す事の巨大さは、それはもう、秋の空ほども大きいのではないかと自分には思われます。
 毎夜毎夜眠れず蒲団で輾転としている自分と、その自分が爪痕を残そうとして書いた幾らかのものなど、こうした自然の無限に豊穣な、主張を持たないその力に較べたら、どうでもよいと思えて来ます。

 日も暮れて来たので家に取って返すと、そういう気持ちも、しかし段々と薄れてきました。もとの、憐れな精神の朴念仁へと子供がえりを起こしかけていたのです。
 丁度その時です。一羽の烏がカアと啼きました。シャワーを浴びようとノースリーブを脱ぎかけていた自分は、その声にハッとなりました。どうしたことか、些か胡乱な
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