熟れた悪意の日々/ただのみきや
 

男の頭は壁紙になった
思想も記憶もなにもかも
夕陽に滾る海に
女の顔が浮かび上る
大理石より白く死者よりも仄かに笑み
すぐに沈んでいった
暗闇の中で
男の記憶は一枚の絵
赤い海の底 黒い下着の聖母





一杯やるか

目で追っていた女が急に振り向いた時
雨は斜めに手早く辺りを染めた
バケツに浮かべた小舟のよう
静かに内側から溶け
時間は海月のような山火事だった
幼児たちの散乱に
揺らめきながら目を瞑り
夜の海に足を取られ
一瞬で萎れた花
あるいはキチン質の断章
神の視線に干からびた雀蜂
女の唾のような一滴を添えられて

年を取
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