予兆 ―プロフェシー―/岡部淳太郎
子を見て溜息をついた。その息は汚れた空気の中を通って人々の頭上でゆらゆらと揺れたが、人々がそれに気づくことはなかった。もうこんなことをしている間にもその「何か」はすぐそこまでやって来ているのかもしれない。そう思って彼等は人々のそれとは異なる種類の苛立ちを覚えた。そして、
そして、何がやって来たのか。ここから先は過去形で語られる。彼等が常にその予兆をこうなるかもしれないとか、こうなるだろうという未来形で語ったのとは逆に、ここから先は既に過ぎ去ったことだ。だが、いまの私はそれを知らない。私はその時の彼等や人々と同じ地平にあり、それゆえにいまここという曖昧さを確認するしか手立てがないからだ。だが、そ
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