予兆 ―プロフェシー―/岡部淳太郎
 
等はまた何も期待などしていなかったのだという顔をして、無言でその作業に戻るだけだった。そして、また予兆を感じて、それがすぐ近くにまで来ているということの核心をますます深めて、人や生や死や、あるいはこの地を飛び越えた空の向こうのことなどを考えたりした。
 人々を覆う空の下で、恐怖や不安は日毎に増幅し、それらを容れるうつわはもう飽和寸前にまでなりつつあった。この「何か」の前触れとしての一足早い悲しみの中で、人々の疲労はあふれ出し、そのために誰かが誰かを傷つけ、傷つけられた者は絶望してしまった。そんな不要な争いと苛立ちの中、人々の心の混沌は美しく濁り、予兆を感じることの出来る数少ない彼等は、その様子を
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