父親/道草次郎
それから、除菌タオル…アルコールのやつね、それとお尻拭きと何かと入用になる洗浄綿入れといた」……「お姉ちゃん、お兄がよろしくだって。うん、それだけ」…「あの子の名前受付の人が読めないってボソッと言っててあーって思った」
父親は今にも泣きだしそうな赤ん坊を抱っこして、ミッキーマウス・マーチの歌を口ずさんでいた。この歌を聴かせると、なぜか泣き止むことがあることを父親は知っていた。
部屋をくるくるとあてのない回遊魚のように父と娘はミッキーマウス・マーチの歌と共に泳いでいた。だが、それにも我慢できず、やがて赤ん坊は泣き出してしまった。
聞きつけた母親がドア越しに「大丈夫?」という一言を投げ
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