人は哀しみの器じゃなくて/こたきひろし
 
しいて言うなら、結婚してくれる相手としてお互いが同意したって事だよ」

娘が言った。
「紹介されて知り合ったんだよね。好きになったから一緒になったんじゃないの?」
娘の問いかけに私は答えた。
「一緒になってから好きになろうと必死に努力したんだよ」
私の言葉に娘は納得できないと言った怪訝な眼で私を見た。
しかし、黙ったままの妻が何を言い出すか分からないと怖れてそれ以上は蓋を閉じた。

「分かったわ」
と、娘は暗黙の了解をしてくれた。
そして言った。「相談にのってくれなくてもいいから聞いてちょうだい」

私は娘に申し訳ない事をしてきた。
彼女の稼ぎをこの五年近く掠め取ってき
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