記憶から/道草次郎
の日も何かの用で我が家を訪ねてきた様子だった。それはちょうど我が家が建て替えの真っ最中で、敷地の隅にある離れでの生活を余儀なくされていた時の事だった。したがって玄関というものがなく、来客がある時は、勝手口のような狭いドアを開けてそれを迎えねばならなかった。
その日もノックの音がしたので急いでドアを開けてみると、訪ねて来たT君が窮屈そうに立っていた。T君は昔とちっとも変わらない顔をしてこちらを見ていた。そして、いきなり何を言うかと思えば「おい、J。なんで畑やんないんだ。もったいねえだろ」と、笑われた。T君は昔からその瞬間に思った事をストレートに言ってしまう人だった。ぼくはこの幼なじ
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