記憶から/道草次郎
なじみがあたかも昨日会ったばかりという態度で自分に話し掛けてくるのを、すごく不思議は気持ちで聞いていた。小学生だったのは、ほんの昨日の事じゃないかとT君の目は言っている様だった。
それから、大人になったT君の顔を見て強く感じた事がある。それは、この人はこんなにも幼い顔をしていたのかという素朴な発見だった。その時に感じたショックを後日、母に話したところ、母はなぜ今までそう思わなかったのかと少し怪訝そうな顔をした。T君が小学校を卒業してからというもの、まったくと言って良いほど彼の消息を知らなかったのだからそれは当然の事なのかも知れない。
離れの狭いドアの前でT君
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