無題/朧月夜
「キミ」といったボクの心を、
あの青い空は吸い上げていた。
マンションの中に入ってきてまで、死ぬ、
蝉。
彼らは種を残し得たのだろうか。
茫洋とした想像がとめどなく続く。
「アケミ」と、ボクの名をいつも間違って呼ぶ、
少女がいる。
もう少女という歳でもないのだろう、
しかし心は少女のままで……。
父母への手紙がずっと、
出せないでいる。
あといく月の命……
もう蝉のように愛を交わす歳でもない。
でも、幸せという枷のなかにいて、
ボクはそこに触れられないでいる。
夏日に思うのは、
そんなことばかりだ。
懐かしいという意味では、
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