エメラルドグリーンの流れとねずみ大根と女郎蜘蛛の話/道草次郎
無意識に選曲したのち、ぼくはハンドルを握り、ブレーキから足を離す。左折しながら後部座席の妻をチラ見する。
「さっきさ、自販機のところにおっそろしくデッカイ蜘蛛がいてさ」妻が大の蜘蛛嫌いなのはよく知っていた。
「で、どっかの子供がその蜘蛛を手で潰してたんだよ。女郎蜘蛛って知ってる?あの、黒と黄色の縞模様のやつ」そこまで話し、妻の方を見る。
妻はうつむいてバックの中から何かを取り出そうとしているところだった。ぼくの話など大して気にもとめていない様子だった。アクセルを少しだけ強く踏み込む。
「ねえ、蜘蛛の子を散らすって言葉、さっきそれをじっさいに目の当たりにしてしまったよ」やっと妻が
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