手探りで/ふるる
濃くなる
茶色い猫が歩いてころりと寝転んだ
くわえていたのは靴の片方で
せっせと飼い主に貢いでいるのだった
片方だけの靴が
だから叔父の家の前には並べてあった
彼のいた場所には穴があいて
そんな穴がどこにでもある
そこに触れると冷たくなったり
暖かくなったりする
乾いた音楽がいい
演奏家もウェットなのは苦手
淡々と奏でられるバッハ
ゴルトベルク
という響きも教わった
たまに頭に手を置いてなでるでもなく少し待つ
手を繋いだことはなかった
嘘の何がいけないのよ
母の怒った声は震えていて
なだめてあげたいほどだった
ごめんとつぶやいたのは誰だったのか
誰もいなか
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