桜姫/田中修子
 
こそ出現し
逃げるおんな赤襦袢
うろこの剥げ落ちた なよやかな白い足うらに目を打たれ
いまは怨霊と化した刺青師は
どこかに隠れて、さらう日を待ち構えているのだから
こんなところにいるのはよさないか?

だってさ、もっともっと雪が降り積もってくるよ
あの日降りはじめて、止むこともなく
冷たいとか寒いとかそんなものもある日、ふつっと途切れて そのまんま
人をやめて、人魚になったね
スノウ・ランタンの灯かりに照らされる、青い唇で。

重い灰の雲のきれまに、薄い水灰色の空が覗く、
ま白い傘をさす彼女、藻に銀の蠅がたかっている水面を覗いていて、
「絵になるな」
と道化師が呟く
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