山国の車窓より 〜中央線沿線/道草次郎
ろしい何かが忘れられない。
ぼくが初めてこのピアハウスにやって来た時、ピアハウスは騒然としたらしい。若いイケメンが来るらしいよ、という根も葉もない噂が流れていたのだ。退屈な場所にはつきもののこうした噂は別に驚くには当たらないことだった。
ぼくが休憩室で質問攻めにあっているあいだ、窓の方には、その時のぼくよりずっと若くて可愛らしい顔付きをした男の子が座っていた。机に向かい何事かをブツブツとつぶやいているようだった。その子の横に腰掛け話しかけてみることにした。だが、返事は一切なく、ただ痛々しいばかりの満面の笑みをこちらにむけるだけだった。ぼくはそれまで生きてきてこんなにも哀しい笑顔を見たこ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)