山国の車窓より 〜中央線沿線/道草次郎
たことがなかったし、この先だってあるかも分からない。
シミズさんという女の人は年の頃は30代後半といったところで、話の端々に必ずといっていいほど恋人の影をチラつかせていた。この人も統合失調症だったらしく、いつかこんな話をしていた。「ある時ワタシが会社のお茶飲み場で立ってるとどこからかヒソヒソと同僚の声が聴こえてきたの。その声はワタシの悪口を言ってて、ずーっとずーっとワタシの事を責め続けてた。そしてある日、ワタシ運転中におかしくなっちゃったんだ。ブレーキやアクセルやハンドルやハザードランプのスイッチ、それから方向指示器とか、こんなにもたくさんのものがいっぺんに同時にあるこの車っていう乗り物、ワ
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