なしごころ/ただのみきや
主人公を見つめながら
四季は巡り
時は枯葉色に散り積もる
心が立ち止まったまま
作家は老いて往く
主人公いつまでも若く美しい
瑞々しいその苦悩は
夏の朝の
蔓草に捲かれた白百合のよう
作家は自分を戯曲に登場させて
主人公の助けをしたかったが
ついに 出来なかった
作品の中ですら
自分が愛されることはない
堂々巡りの果ての
行き止まりはいつもそれだった
やがて彼は一匹の猫
いつも主人公を慰めて
膝に乗って寄り添う猫を登場させた
最後の願いとして
戯曲は未完のまま
女性は猫を膝に乗せ
不安げに未来を見つめている
絵画の中とよく似た
透明な
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)