「美道具」醜い器/アラガイs
かうため深夜こっそりと沼地に入っていった。扉を開いたときに少し気になったのは番屋から誰か覗っている。薄気味のわるい蝋燭の灯りが見えたときだった。そして立てかけてあるはずの板がない。いまではわたしだけが権利を有している、この底なし沼地を渡るための長い板が‥。懐中電灯で辺りを見回してみれば、驚いたことに少し左側にずれて沼に掛けられてあったのだ。ふん、誰の仕業か、すぐに見当はついた。夜遅く何度となく老婆とは出くわしていたのだ。
特に寝付きのわるかった朝などには目の前の鏡と対面するのが怖い。
歯を磨く度に気になる痛みと黄ばみ。皺に寄せて肌の張りもよくない。よくないのは年のせいだとしても、瞬きを
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