一晩中娘道成寺を見ていた/ただのみきや
 

パラシュートが開くと風に流されて遠く
見えなくなった
運命の恋人が
わたしの書く詩の中のどこかへ沈んで往く
画家の仕業の蒼ざめた太陽のように
酷い話だ 政治の話なんかよりよっぽど
わたしなら世界を犠牲にしたってわたしを救うだろう
それが自死であり尊厳死というものだ
悲しみも理解も不要なもの
そもそもわたしの詩を解らない他者が
わたしの自死を解るわけがない
だが作品は消去できても
人は決して自分を消去できない
消しゴムを摘まんだその指先が最後に残ってしまう
そして指先には必ず自分の指紋があり
指紋には灯台が立っている
猫がいるしカモメの置物と地球儀もある
開いた本
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