六月酔歌/ただのみきや
安心しておやすみなさい
堕落などしていない
ただ幼稚なだけのあなたの
実(じつ)のある生活
その実を舌の上で蕩かして
夜に包んで捨ててあげる
あとは眠るだけ
一年でも十年でも一生でも
*
視力の衰えからか以前にまして
遥かな青葉の重なりに風の姿を見る
これは画家たちがその画布に
揺らめきのまま固着させようと
瞳を枯らして見つめたものか
それとも単なる錯視錯覚か
大気は澄んだ水のように流れ
もの皆粒子を帯びている
陽炎の仕業か
瞳の波紋か
記憶の糸を大きく撓めて
弦のように弾いて鳴らす
知られない己の仕業なのか
若いころに見た幻
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