帰郷/ただのみきや
 
はわたしの口に黒砂糖を一かけら入れてくれた。初
めて口にしたそれはとても美味しかった。黒砂糖という響き
から想像したのは黒い宝石みたいなものだったがそれが土や
糞みたいな塊だと知った時はがっかりした。あの時すでに僕
には指が一本足りなかった。なぜ指が足りないのか尋ねると
祖母のラジオは黙ってしまった。納屋には秘密が出入してい
る。その証拠に戸は誰もいなくても開いたり閉じたりしてい
たし祖父の時計はいつも湿気で曇っていて時間がよくわから
なかった。だがそれは祖母の顔も同じでじっくりと観察した
ことはなかったのだ。ふと僕の指はあの鋏でちょん切られ祖
母に食べられたのではないかと想っ
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