帰郷/ただのみきや
想った。理由は特になかった
が想うことから現実は始まるのだ。
朝ごはんがまだだった。本当は今すぐ真っ白い牛乳を全身
に浴びて石膏のダビデ像みたいになりたかったけど、子供に
とっては分厚い本から一行の言葉を見つけ出すみたいに時宜
にかなったことと自分の欲求がひとつに合うことなんて不可
能に思われたから、おとなしく赤ん坊になって祖母のたらい
で瓜のように洗われていた。すると祖父が鉈をもって入って
来た。祖母の鉢からは海の蔓が伸びて来る。――海の神と山
の神が子供の肉を奪い合う――そんな迷信を魂に刺青された
ままで唯物論を唱えロケットにも乗ればミサイルも撃てるよ
うでなければ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)