帰郷/ただのみきや
 
れば大人にはなれないとラジオは言った。おまえは
子供から一足飛びで老人になるのだと時計が鳴った。だから
何だと言うのだろう。僕は今でもあのガラス壜の中の舌を見
ている。蟻が増え痩せ細って往く舌。ああ文字の増殖が僕を
唖者にするのだ。
 どうか僕を見つけてほしい、そうして僕などどこにも居な
かったことを証明してほしい。黄金週間に僕はやっと帰郷を
果たした。女であることを辞して男になったことを君と架空
の家族へ伝えるために。僕の故郷はこの白紙なのだ。

「ここは昔 一面のれんげ畑だった」 父の影が言う




                    《帰郷:2020年5月31日》









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