帰郷/ただのみきや
うあの並木は
すっかりなくなってしまっている。
君の爪は花びらのようで口に含むと茱萸(ぐみ)の味がした。君の
失くした青い釦をさがして透き通る小川を覗き込むと僕たち
は驚くほどよく似ていてそれが面白かった。二人で違う色の
花を互いの耳の辺りに飾ったりそれをとりかえっこして遊ん
だりもした。あの日きみが宝物だと言って見せてくれたジャ
ムの空き瓶に入れられたやわらかな舌と黒い蟻は今も夏の陰
影に縁取られ現実を越えた現実として僕の一部になってる。
祖母の前掛けから頭を出した花鋏が奇妙な土偶のように見
える。草の汁と鉄の匂いが僕の鼻もちょん切るようで怖かっ
た。祖母はわ
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