帰郷/ただのみきや
 
いものならいかようにも想像して良い訳
で、僕は僕の父をデザインして遊んでいた。
 父は僕が母の胎に宿ったころ山に入って身を隠した。山に
呼ばれた訳でもなく精進潔斎のためでもない。かと言って猟
や山菜採りでもなく、単にこの社会から逃げ出すための入山
だった。
 その男は蝉や郭公の声を聴きながら一枚ずつ正気を脱ぎ捨
てる。羞恥の最後の一枚を脱ぎ捨てて欲望だけになった男の
肌に蛭の音符が張り付いて往く、脳天に刺さる逆さ円錐の太
陽と腐葉土の熱い吐息の中でひとつの交響曲が生まれるのだ。
視神経が琵琶のように鳴る。すると幻影たちが現れて問答が
始まった。豆鉄砲による一斉射撃で射精し続け
[次のページ]
戻る   Point(4)