帰郷/ただのみきや
た。祖母のからだはカサカサに乾いた魚の
皮のようだったから、水を張ったたらいの前に屈んでいるの
を見ると、祖母のからだはもうとっくに死んでいて陽射しと
戯れる煌びやかな水こそが祖母なのではないかと想われた。
そうして僕が想うことはそうなった。祖母の声はラジオのノ
イズだったがその指先の浸透性は高く時折僕のからだに指で
何か文字を書くのだが、そのたびに僕は卒倒、悶絶、おしっ
こを洩らすほど笑ったものだ。後に聞いたことだがそれはま
じない一種だそうで祖母は僕が山に呼ばれてしまうことを警
戒していたらしい。
母は漢字を全く用いない人だった。漢字を使わなかったの
か書けなかった
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