壊疽した旅行者 五/ただのみきや
この辺りの春}
この辺りの春はいつも遅れて来る
暦など全く無視
遠くから聞こえる祭囃子
いつまでも境を周って町へ来ない神輿
近づいたと思えばまた遠のいて
じらすことを楽しんでいるかのよう
ようやくやって来た
一陣の風 薄衣一枚くぐるよう
あっという間に花が咲き花が散り――
そこには初夏
少年のように拒みようのない面持ちの
幸福は悲しい
父親と母親と二人の男の子がサッカーをしている
緊急事態宣言が出された
ひと気のない 朝の公園で
父親と母親がパスを回し二人の子どもが追いかける
まだ小さい下の子は
走っても走っても追いつけない
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)