壊疽した旅行者 四/ただのみきや
 





春の坂道

日差しに鳥の声は次第に高まって
それでも空は恐ろしいほど深くてなにも無く

一本の縦笛がゆるやかなアスファルトを転がってくる
生来の音色にあってはならない鈍く削らえるような響き

ハイヒールを履いた女が通り過ぎる
慣れない 様に鳴らない足どりで

――交差して

食べ残しの おっとりとした朝
もう助からない 助からないそれすら回想だ

足元を過ぎて 届かない処
なんどもなんども繰り返す
なだらかでも坂道は坂道だ




死者の数

死者を数える時 顔がない
たったひとつの死 その顔だけが
親しい者たちに
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